車に働く自然の力と運転
走行中の車には、その重量と速度により運動エネルギーが生じ、このため慣性力(そんのまま動き続けようとする力)や遠心力(はみ出そうとする力)、摩擦力(抵抗する力)などの自然の力が働きます。
安全運転するためには、この自然の力(誰も逆らえない)を理解し、車をコントロールできる限界があることを知っておくことが大切です。
Ⅰ 車が動き続けようとする力と停止しようとする力
1 摩擦抵抗の利用
運動している物体は外から力を加えない限り、そのまま運動を続けようとします。これを慣性(かんせい)の法則といいます。走行中の車はギアをニュートラル(エンジンの動力がタイヤに伝わらない状態)に入れても走り続けようとする慣性があります。この車を止めるには、ブレーキの摩擦抵抗を利用します。つまり、慣性を摩擦抵抗でコントロールするわけです。
しかし、摩擦抵抗には限界がありますから、その限界内でコントロールできないときは、障害物を認めてブレーキをかけてもその手前で車を止めることができず、衝突したり路外に飛び出したりすることになります。
摩擦抵抗の限界は常に一定しているわけではなく、ブレーキ装置の状態やタイヤと路面との摩擦係数によって変わってきます。
2 車の停止距離
ブレーキをかけても車はすぐには止まりません。
停止するまでには、運転者が危険を感じてからブレーキをかけ、ブレーキが実際にきき始めるまでの間に車が走る距離(空走距離)と、ブレーキがきき始めてから車が停止するまでの距離(制動距離)とを合わせた距離(停止距離)を必要とします。
危険が発生した場合でも、安全に停止できるような速度で運転しましょう。
① 空走距離が長くなる場合
運転者が疲れているときなどは、危険を感じて判断するまでの時間が長くなるので、空走距離は長くなります。
② 制動距離が長くなる場合
路面が雨にぬれていたり、タイヤがすり減っている場合には、摩擦係数が著しく小さくなる(滑りやすい)ので、制動距離が長くなり、乾燥した路面でのタイヤの状態がよい場合に比べると、2倍程度長くなる場合があります。
また、重い荷物を積んでいる場合も制動距離が長くなります。このため、過積載(制限を超えて積載)をすると制動距離がさらに長くなります。
③ 効果的な制動方法
交差点や一時停止場所などで停止する場合には、十分手前でブレーキを軽く踏みブレーキランプを2〜3回点滅させて、後ろの車に停止する合図を送ってから、再びブレーキペダルを軽く踏み込み、徐々に強くし、停止する位置に合わせるようにブレーキペダルの踏み込み加減を調整しながら停止します(ポンピングブレーキ)。これは後ろからの追突を避けるのに有効です。
危険を回避するためにやむを得ず(どうしようもなくて)急ブレーキを踏む場合、ハンドルをまっすぐにし、タイヤをロックさせ(回転を止め)ないような強さでブレーキを強く踏み込みます。これが車の安定を保ったまま制動距離を最も短くする方法です。(このブレーキをコンピュータにやらせたのが「AアンチロックBブレーキSシステム」です)
ブレーキを一気に強くかけてロックさせると、制動距離が長くなり、ハンドルもきかなくなり、横すべりが起こることがあります。特にすべりやすい路面で起きやすくなります。このような場合、あわてずにハンドルをしっかり握り、ブレーキは緩めないようにしましょう。
いずれにしても、緊急時にこのような措置をとることは困難な場合が多いため、危険予測を適切に行い、あらかじめ速度を落とすことが最も大切です。
Ⅱ 荷物の積み方等と車の安定性
1 荷物の積み方による車の安定性の変化
車にかかる重力(重さ)を一点に集めてつり合いのとれるところを重心といいます。重心が高いほど車は不安定になるので、積荷は高く積みすぎないようにしなければなりません。
積み荷が左右平均しない場合も、重心が一方に片寄るためハンドルをとられたり、ゆるいカーブでも横転することがあります。また走行中、急ブレーキをかけると重心が前に移動するため後輪がロック(タイヤの回転が止まること)しやすく、不安定になります。
2 凹凸路での積み荷の点検
砂利道など凹凸の多い道では、積み荷がずれたり、ロープがゆるむことがあるので、時々降りて点検することが必要です。
Ⅲ カーブ、坂道での運転
1 カーブ、曲がり角での運転
① 飛び出そうとする力をコントロールする運転
カーブや曲がり角でハンドルを切る(まわす)と、慣性による遠心力が働きます。
遠心力は速度の2乗に比例(2倍になれば4倍、3倍になれば9倍、10倍なれば100倍)して大きくなり、またカーブの半径が小さい(きつい)ほど遠心力は大きくなります。
この遠心力がタイヤと路面との摩擦抵抗より大きくなると、車をコントロールするのが非常に難しくなり、車は横すべりを起こして曲がりきれずに路外に飛び出したり、横転したりすることになります。
カーブなどでは常に遠心力が働くことを考え、カーブの手前で十分に速度を落とすことが大切です(速度を1/2に落とせば遠心力は1/4に、1/3にすれば1/9、1/10に落とすことができれば1/100に減少する)。
② 先を予測する運転
カーブなどでは見通しが悪く、前方の状況がわかりにくい場合が多くなります。したがって、あらかじめ対向車などを予測し、曲がり具合や道幅などを考慮し、状況に応じた速度と最も安全な進路を選ぶことが大切です。
2 坂道、山道での運転
上り坂では車の重量と勾配の度合に応じた勾配抵抗が車にかかるので大きな力が必要となり、下り坂では勾配による加速がつくので、速度を抑える力が必要となります。このため、勾配の度合いに応じた正確でタイミングのよいギアチェンジやブレーキ操作などが要求されます。
また山道は坂やカーブが多く、見通しが悪いうえ道幅が狭く、路面状況が悪い落石のおそれもあります。片側が崖になっているなどの悪条件が重なるので、慎重に運転しましょう。
① 上り坂での発進
上り坂で発進するときは、4輪車の場合はハンドブレーキ(駐車ブレーキ)、2輪車は後輪ブレーキ(MT車はペダル、AT車はレバー)などを使って、車が後退しないようにしなければなりません。
② 上り坂で停止する場合の車間距離
上り坂で前の車に続いて停止するときは、接近しすぎないようにしなければなりません。あまり接近して停止すると、前の車が発進の際に後退して衝突される場合があります。
3 下り坂でのエンジンブレーキの使用および車間距離
① 急な下り坂や長い下り坂では、エンジンブレーキ(アクセルをやめるまたはシフトダウン)を使い、また必要に応じて4輪車はフットブレーキ、2輪車は前後輪のブレーキをかけるようにしましょう。
このとき、いきなり低い(力の強い)ギアにチェンジするとエンジンが過回転となり、急ブレーキとなるので注意が必要です。
また、フットブレーキや前後輪ブレーキは使いすぎると、フェード現象(ブレーキのききが弱くなる)やベーパー・ロック現象(摩擦熱によってブレーキオイルに気泡ができ全くきかなくなる)が発生し危険です。
下り坂では加速度がつき、停止距離が長くなるので、前車との車間距離は平地の場合より多めに取るようにしましょう。
4 坂道でのゆずり合い
① 坂道では(マニュアル車だった場合)上り坂での発進が難しいので、下りの車が上りの車に道をゆずりましょう。
上りの車でも、近くに待避所(スペース)がある場合、上り下りに関係なく、待避所のある方が待避所に入って道をゆずりましょう。
片側が転落のおそれのある谷になっている狭い道では、上り下りに関係なく、谷川の車があらかじめ安全な場所にて停止して道をゆずりましょう(転落のリスクが低くなります)。
② 重い荷物を積んで長い上り坂を低速で運転するときは、後ろに車がつながらないよう、時々左側に寄って徐行か停止するなどして、後続車に道をゆずりましょう。
5 路肩(歩道や路側帯のない道路において路端から0.5メートルの部分)に対する注意
山道では、路肩が崩れやすくなっていることがあります。特に雨上がりや雪どけのときには、路肩に寄りすぎないように注意しましょう。やむを得ず路肩に寄るときには、車から降りて状況を確かめるようにしましょう。