Ⅰ 認知・判断・操作
1 認知・判断・操作
運転者が走行中にブレーキをかけるときは、まず、目や耳で障害物を認知し、ブレーキをかけるべきだと判断してから、操作に移ります。
この認知→判断→操作の過程には多少の時間がかかります。
短時間のうちにすべての情報(障害物など)をとるのは難しいことです。
また、車の走行速度や障害物の距離などを判断するときは、自分の判断が実際の速度と距離とは異なることがあるので注意しましょう。
さらに周囲や運転者本人の条件が悪くなると、正確に判断することはいっそう困難になります。
このように、人間の能力には限界があることをよく知ったうえで、運転することが大切です。
2 反応時間
運転者が危険を認めてからブレーキをかけ、ブレーキがきき始めるまでには1秒くらいかかると言われています。これを反応時間といいます。
1秒間に走る距離は、速度が速ければ速いほど長くなり、障害物を避けることは難しくなるので、速度は控えめに、ブレーキは早めにかけるようにしましょう。
反応時間の3段階
3 視覚の働き
車を運転するときはさまざまな体の働きを使わなければなりません。特に目から入ってくる情報に頼る割合が高く、視覚の働きは最も大切です。
① 視力
a 視力
視力は普通、万国式視力表を使って測定します。しかしこれは1点を注視したときの視力ですから、注視点から離れたところの視力は測定視力よりも低下します。
したがって運転中は、1点だけを注視(2秒以上見ること)しないで、必要に応じてたえず目を動かし、まんべんなく注意を払わなければなりません。特に速度が速くなると、遠方の情報まで的確に取る必要があります。常に情報を先取りすることを心がけましょう。
b 動体視力
動きながら物を見る場合、または動いている物を見るときの場合の視力を動体視力といいます。動体視力は静止したまま静止したものを見るときの視力(静止視力)に比べて低くなります(約1/2以下)。したがって、速度が速くなると視力が低下し、それだけ危険な状況の発見が遅れることになります。
② 視野
a 視野
人が目の位置を変えずに見渡せる範囲を視野といいます。普通、静止時の視野は、片目で左右それぞれ160度くらい、両目なら200度くらいです。
このうち色彩を完全に確認できるのはさらに狭く、左右それぞれ35度付近までで、そこから外側になるほど、色彩を正確に確認できなくなります。したがって、信号や標識などはよく見ないと、見間違えるおそれがあります。
b 視野と速度の関係
車の速度が早くなるほど、運転者の視野は狭くなり、遠くを注視するようになるために、近くは見えにくくなります。
したがって、速度を出しすぎると近くから飛び出ew345erftgty8/.\\してくる歩行者や自転車などを見落としやすくなるので注意しましょう。
③ 順応
暗いところから急に明るいところへ出ると、最初はまぶしくてよく見えませんが、しばらくすると目が慣れて通常通り見えるようになります。これを明順応といいます。
反対に明るいところから急に暗いところへ入ったときも、最初は何も見えませんが、やがて少しずつ見えるようになります。これを暗順応といいます。暗順応のほうが明順応より時間がかかります。トンネルの出入り口を走行するときなどは、速度を落として慎重に運転しなければなりません。
4 距離と速度の判断
運転者は走行中、ほかの車や障害物との距離を自分なりに判断し、時には速度計を見ずに走行中の速度を判断することもあります。
しかし、人間の判断は必ずしも正確ではなく、錯覚を生ずることもあるので、距離や速度を判断するときは、カンに頼らず速度計を見て速度を確認する習慣をつけましょう。
特に高速道路から一般道路に出たときは、速度超過になりがちなので注意が必要です。さらに、道路上のさまざまな条件が変化すると、速度や距離に対する判断の誤差はいっそう大きくなります。
① 夜間・・・周囲が暗くて見えにくいため、距離についての判断が狂う。また他車のライトを頼りにして、自分の車からの距離や他車の速度を判断すると、正確でない時がある。
② 高速道路・・・周囲が開けているため、実際の速度より遅く感じる。
③ 車の大きさ・・・同じ距離であっても大きい車近く、小さい車は遠くに感じる。
2 認知・判断・操作に影響を及ぼす要因
認知・判断・操作に影響を及ぼし、反応時間を長引かせるなどの好ましくない結果のもととなる要因には、さまざまなものがあります。
これらの要因は飲酒や疲労のように、前もって予防できるものもあります。
① 飲酒
a 飲酒が及ぼす影響
お酒を飲んだときの判断には個人差があります。また、お酒を飲むと一時的に緊張がとけて気分が高揚するので、頭が冴えたように錯覚することもあります。
しかし、実際にはアルコールは確実に脳の働きを鈍らせます。物事を冷静に判断したり、論理的に考えることができなくなります。
お酒を飲んだ後に車を運転すると、判断力や自制心が鈍るために、的確な操作をすることができなくなります。
また視覚の働きが低下したり、距離や速度などの判断が狂うといったさまざまな悪影響が現れます。
b 飲酒運転の恐ろしさ
飲酒運転は、死亡事故などの重大な交通事故を引き起こします。お酒を飲んでから時間が経ったので、運転してもいいだろうと安易に考えることは大変危険です。
少しでもお酒を飲んだときは、絶対に運転してはいけません。また、運転する予定のある人にお酒を勧めたり、飲ませてはいけません。
② 疲労
a 疲労の原因
運転中に疲労を感じるような場合には、次のような原因が考えられます。
(a)睡眠不足などで生活リズムが乱れている。
(b)高齢であったり運転経験が短い。また疲れやすさにも個人差があり、疲れやすい人もいます。
(c)時刻、気温、道路の状況や走行距離、車内の環境などの条件によって疲れやすいこともある。
b 疲労が及ぼす影響
疲れた状態は、あくび、居眠りというかたちで現れたり、反応が遅くなるなどの変化が見られます。
目に見えない変化としては、心拍数が増加したり、血圧が上昇します。少しでも眠気などの変化を感じたら、なるべく早めに休息をとることが必要です。
C 過労運転を避ける方法
極度に疲れた状態で車を運転することのないように、次の点に注意しましょう。
(a)睡眠を十分にとり、体調を整えて心身ともに健康な状態で運転する。体調が悪いときや精神状態が不安定なときは運転しない。
(b)前もってゆとりのある運転計画を立て、長時間続けて運転しないようにし、少なくとも2時間に1回は休息を取る。
(c)疲れを感じた場合は無理をせず、早めに安全な場所に駐車し、仮眠を取ったり軽い運動をする(仮眠した直後の運転は危険です)。
③ その他の要因
運転者の体や精神の状態がよくないときは、反応が遅れたり、反応時間にムラが生じたりします。以下のような場合に注意しましょう。
a 心身の状態
かぜや病気で体の調子が悪い時、精神状態がよくないとき、また気分が浮かれているときは反応時間が長くなったり、不規則になったりします。
b 病気と薬
高血圧症、低血圧症、糖尿病など意識障害がいつ起きるか分からない病気やめまい、立ちくらみ、耳鳴り目のかすみなどの自立神経の失調や平衡感覚の障害を伴う病気を持つ場合は、反応時間が長くなる場合があります。
また、かぜ薬などの抗ヒスタミン剤、精神安定剤などの多くは反応時間を長引かせる原因になります。
C 年齢
一般に年を取るほど反応時間は長くなります。視力や聴力などが衰え、反射神経や筋力も低下します。
d その他
ぼんやり運転、運転経験の不足なども反応を遅らせる原因にもなります。